メンタルリープの根拠3:直接的因果関係~脳の成長~

病気のピークと乳幼児突然死症候群のピークの背景に、脳の発達に伴う急激な変化があるという示唆を得たことから、F.プローイユ博士とH.ヴァン・デ・リート博士は「ティンバーゲンの4つのなぜ」の3つ目の問いとして、退行期(メンタルリープ)が起こる直接的因果関係を考えることにしました。

修正週齢と結びついた脳の変化

Trevarthen氏とAitken氏が書籍『Regression periods in human infancy』に掲載した、出生前後の中枢神経系の発達に関するレビュー論文によると、齢と結びついた脳の急変現象が存在するという明確な証拠があります。たとえば生まれて最初の数ヶ月間に起こる退行期(メンタルリープ)の始まりや直前に、赤ちゃんの頭囲が急激に大きくなることが明らかになっています。また、ほとんどの退行期の始まりや直前に、急激な脳の変化が起こることも明らかになっています。

階層的知覚制御理論

上記のような脳の解剖学的データとは別の角度からも、退行期という事象の直接的因果関係を説明できます。それは知覚制御理論に基づいたアプローチです。これは人間の神経系の機能モデルの理論です。このモデルのポイントは、知覚の処理をつかさどるのが行動であり、その逆(行動の処理をつかさどるのが知覚)ではないという理論です。

上の図は、特定の刺激を捜したり処理できる知覚レベルを階層的にまとめたものです。ピアジェの感覚運動期の間は、特定のレベル(タイプ)の知覚が順々に芽生え、それがきっかけで退行期が起こります。

このモデルの素晴らしいところは再現検証が可能なところです。ある個体が特定の知覚刺激を捜したり処理できるのであれば、その刺激が妨害されると抵抗や反作用が起こるはずです。逆に、その個体が特定のタイプの知覚刺激を認識できないなら、その妨害に対して関心を示さないはずです。認識されていない刺激は、その個体にとって存在しないのと同じです。そのため気にならないはずだからです。

上の図における知覚制御理論モデルは、各退行期の始まりや直前に、どういうタイプの知覚が芽生えるのかを示しています。芽生えるとされている知覚の種類は、形態、推移、出来事、関係、分類、順序、工程、原則、体系です。

出来事と順序の知覚の比較

この階層的知覚制御理論モデルを検証するにあたって、いくつかの予備研究が行われました。その例として、ここでは出来事と順序の知覚の芽生えに関する研究を紹介します。この2種類の知覚を選んだのには、2つの理由があります。

Aldridge氏(1993)等は人間行動学的手法と実験・神経生理学的手法を組み合わせて、行為の順序の知覚や処理には新線条体が関わっており、この脳の部位によってネズミの毛づくろいの系統的配列が判断されることを明らかにしました。新線条体が損傷すると、行動の特性や概念、要素には影響がないのに、行動の順序にのみ影響が出ます。つまり出来事の認識や処理は、順序の認識や処理とは別の知覚階層レベルで行われていることになります。人間の乳幼児における時間的順序の知覚や記憶は、動作、技能、成果のすべての進歩を前提とする包括的な潜在能力なのです(Diamond氏,1994)。

F.プローイユ博士とH.ヴァン・デ・リート 博士は特定の知覚刺激(たとえば出来事や順序の知覚)に基づいた20~30個の技能群を開発しました。そして退行期が始まって特定の知覚が芽生えるとされる齢の2ヶ月前から2ヶ月後までの計4ヶ月にわたって、毎週、赤ちゃんに該当する技能群を提示しました。その際に立てられた仮定は、その齢に差し掛かる前は当該技能群をあまりできないけれども、その齢以降は次々にできるようになるというものです。

上の図は4人の赤ちゃんの出来事の認識や処理に関するグラフです。赤で強調されている週は、その母親によって退行期が報告された修正週齢です。

上の図は、4人の赤ちゃんの順序の知覚に関するグラフです。両グラフとも似たような結果が示されています。

これらは予備研究にすぎません。他にも検証すべき事柄がたくさんあります。たとえば各技能群の個々の技能に対して、任意の妨害が赤ちゃんに反作用行動を起こさせるか否かです。また、起こすのであれば起こり方も調査するべきでしょう。

齢と結びついた脳の発達に伴う変化と退行期の直接的因果関係の研究に、特定の知覚の芽生えの研究を絡めて行うこともできるでしょう。たとえば特定の脳の部位が急に大きくなったことがわかれば、そこで何の知覚が制御されているのか知るヒントになります。逆に特定の齢で特定の知覚が芽生えることが明らかになれば、神経科学者に要請して当該齢の辺りに起こる脳の変化を探してみることもできるでしょう。

退行期と進歩

新たな知覚が芽生えると全く新しい感覚世界が開かれ、赤ちゃんはその世界を探求することになります。そうすることによって、新しいことがわかるようになったり、できるようになる進歩が起こるはずなのです。F.プローイユ博士とH.ヴァン・デ・リート博士は、各退行期の後に一連の当該技能群が表出するはずだという仮定を立て、スペインの共同研究者と共に検証しました。彼らは毎週それぞれの赤ちゃんの母親に質問をし、当該技能群の中から新たに観察された技能を記録しました。その結果が上の図に示されています。青い線が新たな技能の芽生えを表しています。赤い線は退行期を表しています。明らかに退行期に続いて、新しい技能の芽生えのピークが起こっています。

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